そのお店は、とある観光地の出口にありました。
「研いでいます」
そう書いた貼り紙の通り、男の人が包丁を研いでいました。
「話を聞くだけはタダだよ」
その言葉にひかれて立ち止まりました。
そこにはたくさんの包丁がありました。
包丁の造り、バランス、刃の形、鋼の材質、研ぎ方…
たくさんの事を教えてもらいました。
そして、お店の中でも逸品と思われる包丁をひとつ買いました。
以前、爪切り工場で職人さんが作った爪切りを買い、それを使って以来
道具は「本物」を買わないといけないと痛感したからです。
「本物」のいい買い物が出来たという何とも言えない幸せな気持ちのまま駐車場へと向かいました。
しばらくすると別の刃物屋さんがありました。
「もしかして、そこで包丁買いました?」
話しかけてきたのは、数百年の歴史を持つ刃物屋の店主でした。
自分が買ったお店は、この仕事を初めて10年になる元営業マンがやっているお店であるということ、どのような手口を使って物を売りつけるかなど、自分が買ったお店がいかに間違いなお店であったのかを教えてくれました。
まさかという気持ちでネットの口コミを見ると自分が買ったお店のネガティブなコメントがたくさん書いてありました。
考えてみれば、ここは街の商店街でもないのに「研いでます」って書かないよなーなど、おかしいなと思えば思うほど、思い当たる節がたくさん出てきました。
いい買い物は、最悪の買い物になりました。
旅の間、自分たちの心の底にずっと重い雰囲気が漂っていました。
旅を終えて、自宅で使ってみました。
驚嘆したカミさんの声
「本物だ!」
めちゃくちゃ切れる
それ以降、ネギを切っては
「これ、すごい!」
イカを切っては
「本物だ!」
そうなのです。
それは正真正銘の「本物」だったのです。
確かにネットには、そのお店に対するネガティブなコメントはあるものの、商品の悪口はひとつもありませんでした。面白いもので、疑いの目で見ると何でも怪しく思えるものです。
買ってよかった。いい買い物をしたと心から思える「本物」に出会うことができました。
他人がどう思おうとも自分がその価値を認めることができれば、それでいいではないか。
そう思っていたはずなのに、まずはネットで口コミを調べます。それで良し悪しを判断してしまっていました。
それがいつの間にか習慣になっていたような気がします。他人の価値観で物を観る習慣ができてしまっているのではないかと改めて気付かされる出来事でした。
改めて反省をし、これから行くであろう景勝地やお店は、自分の目で観て自分の感性で感じて、本当に素晴らしいものを紹介していきたいと思います。
それにしても、「本物」はすごい!