会社を辞めることを公表した後、ある人からリンゴをいただきました。これがそのリンゴです。「実家の近所の人が奇跡のリンゴと同じ作り方で作ったリンゴです」と書いてありました。以前、僕が話した奇跡のリンゴの話を覚えていてくれて持って来てくれたのです。
奇跡のリンゴ
青森には、絶対不可能だと言われたことを覆した「奇跡のリンゴ」と言われるリンゴを栽培している方がいます。その方は木村秋則さんと言います。リンゴは一年に17回くらい、いろんな種類の農薬や肥料を散布するらしいのです。しかも専門家が決める適切な時期に適切な量を厳格に守る必要があるらしいのです。それくらいしないとリンゴは実をつけてくれないそうです。木村さんはそれを無農薬、無肥料で栽培することに挑戦しました。6年もの間、いろんなことをやったもののうまくいかず、それどころか半分の樹は枯れてしまいます。収入は減るし家族には貧しい思いをさせてしまうし、ついに諦めて命を絶つことを考えます。岩木山に登りロープを結びつけて命を絶つ時に、どうすれば良いか気づきます。それは土壌だったんです。以下、木村秋則さんの言葉です。
人間に出来ることなんて、そんなたいしたことじゃないんだよ。みんなは、木村はよく頑張ったって言うけどさ、私じゃない、リンゴの木が頑張ったんだよ。これは謙遜なんかではないよ。本気でそう思ってるの。だってさ、人間はどんなに頑張っても自分ではリンゴの花のひとつも咲かせることが出来ないんだよ。手の先にだって、足の先にだって、リンゴの花は咲かせられないのよ。そんなことは当たり前だって思うかもしれない。そう思う人は、そのことの本当の意味がわかっていないのな。畑を埋め尽くした満開の花を見て、私はつくづくそのことを思い知ったの。この花を咲かせたのは私ではない。リンゴの木なんだとな。主人公は人間じゃなくてリンゴの木なんだってことが、骨身に染みてわかった。それがわからなかったんだよ。自分がリンゴを作っていると思い込んでいたの。自分がリンゴの木を管理しているんだとな。私に出来ることは、リンゴの木の手伝いでしかないんだよ。失敗に失敗を積み重ねて、ようやくそのことがわかった。それがわかるまで、ほんとうに長い時間がかかったな。
僕は、この話を聞いて「はっ」としました。部下もリンゴの樹も一緒なのです。自ら育つ力を持っているにもかかわらず、良かれと思ってその育つ力をダメにしているのではないでしょうか。設計をする際に失敗をしないようにチェックリストやマニュアルをたくさん作ってあげたり、失敗しそうだったら失敗しないように正しいやり方を教えたりします。まるでリンゴの樹に農薬を巻いているのと同じではありませんか。これは、なにも部下に関する話だけじゃなくて子供も同じなんだと思います。世の中のお父さん、お母さん、少し考えてみませんか。
みんな自ら育つ力を持っています。その力を最大限発揮できるための土壌を作ることこそ我々大人や社会がやるべきことなのではないかと思います。