青森県大間町にあるマグロのオブジェ
旅をしていると多くの情報に接します。そして、その情報が知識と結びついた時、小さな感動を覚えます。
ある時、スーパーで買物をしていると「フクラギ」と書いたお刺し身がありました。今まで食べたこともないものを食べるのが旅の楽しみでもあります。早速買って今夜のお酒のおつまみにしようと思いました。しかし、よく見るお刺し身のようにも見えます。
今は便利なものでスマホでさくっと調べることが出来ます。調べてみると、なんとブリの幼魚である「イナダ」のことではありませんか。関西では「ツバス」とも呼ぶみたいです。珍しい魚だと思って飛びつかず調べてみることが大事なのですね。
子供の頃住んでいた宮崎には、「シビ」という魚がいて、よく食べていました。関東に出てきて「シビ」という魚は聞かなくなりましたので、関東にはいない魚なのだと思っていました。それが、マグロのことを指すのだと知ったのはかなり経ってからだったのを覚えています。
昨年、北海道の乙部町の「しびのさき」に柱状節理を観に行った時のことです。
説明の石碑を見て驚きました。「しびのさき」が漢字で「鮪ノ岬」と書いてあってのです。宮崎から遠く離れた北海道でもマグロ(鮪)のことを「シビ」と言うのだと知りました。
調べてみると日本全国でマグロのことをシビと言うらしいのです。東北から北陸にかけてはクロマグロ(本マグロ)のことを指し、関西から南にかけてはキハダマグロのことを、また、三重、和歌山ではビンナガマグロのことを、沖縄ではメバチマグロのことをそれぞれ、シビと呼ぶらしいです。いずれにしても、マグロのことをシビということに違いはありませんでした。
また、漢字の鮪は訓読みで「まぐろ」と読むのはよくご存知だと思いますが、実は「しび」とも読みます。
驚きは、さらに続きます。
今年、アイヌの文化について調べていました。これは、余市のカムイが祭具として使用していたカムイギリというものです。下に7つの木彫りの魚などがかけてあり、それぞれ名前がかいてありました。
そして、一つひとつの名前にはカムイの言葉で何と呼んでいたのか( )付きで書いてありました。驚いたことにマグロ(シビ)と書いてあるではありませんか。なぜ、カムイがマグロのことをシビと呼んでいたのかはわかりません。しかし、偶然の一致とは思えません。カムイか和人のどちらかが使っていたものが伝わったのだろうと思います。
これは、奈良県にある唐招提寺金堂の屋根に載っているもので鴟尾(しび)と言います。中国の大棟の両端を強く反り上げる建築様式が発展したもので、3世紀から5世紀頃に鴟尾となり、その後、鯱(しゃちほこ)へと変化を遂げていきます。日本へは飛鳥時代に伝わったと考えられています。形が魚に似ていることからもマグロのシビと関係がありそうな気がします。
その当時の北海道は、オホーツク文化期でアイヌ文化期の500年くらい前になりますが、すでに本土との交流はありました。鴟尾がマグロの語源となり、そして北海道や日本全国に伝わりアイヌの人たちの言葉になっていったと考えても不思議ではありません。(でも、なぜシビという言葉だけがと言う疑問は残ります)
ところで、鴟尾の「し」にあたる鴟は、とび、とんび(鳶)、ふくろう、みみずくと言う意味があります。アイヌにとってシマフクロウは特別な存在でしたので、特別な意味があったのかもしれません。
旅をするたびに知識が増え(忘れる量の方が多い気もしますが)、その知識がさらに旅の新たな情報と繋がっていく、その時の感動も旅の楽しみの一つだと思います。
そのためには知識を増やしていかないといけないのですけどね(笑)